普通、手術というと不安だったり心配だったりするものなのかもしれないけれど、このときの私は心底
「待ってました!」
の気持ちでいっぱいだった。
ベッドが押され、関係者用エレベータに乗せられて手術センターのある階へと運ばれた。
入口で何人かのオペスタッフらしき人たちの1人が、
「お待たせしました。僕はオペ室・・・・の・・・・といいます。よろしくお願いします。」
とぺこっと礼儀正しく頭を下げ、若い青年が自己紹介してきた。
「はぁ・・・まさかアンタが私のハラを切るんじゃなかろう・・?」
と一瞬不安に思っている間にも、青年は私のベッドをゴロゴロ押して、
「この先、ココがオペ室です!」
ととてもハキハキとバスガイドさんのように意気揚揚に説明してくれ、私を運び入れた。
運ばれたオペ室はいわゆるテレビでよく見る雰囲気のある部屋で、私の真上にはドラマなんかのオペのシーンで必ず登場する丸い電球がシャーっと6つ7つ並んでいた。
移動ベッドから手術台に移され、着ていたものを全部脱がされて、まさにこれこそ「まな板の上の鯉」なのね、って感じ。
なんて考える余裕もでてきて、興味深々、キョロキョロしていると
「では、麻酔をしますからね。身体を横向きに。じゃあ、1回練習してみましょう。」
と、先ほどの青年が、素っ裸の私を横向きにして、頭をできるだけ胸につけるように、などと説明されながらリハーサルを行った。
そして本番。背中の真中辺りにプスッと針がささる感覚がした。
そして、随分長い間、注射していた。
数分後、麻酔が効いているかどうかを確認するために、水を含ませた脱脂綿がまず私の首回りにたらされて、「冷たい?」と聞かれる。
「はい、冷たいです。」と私。
次に、下腹部の方にも水をたらされて同じく「冷たい?」。
今度は、「う〜〜ん、冷たい、のかなぁ。何かがたらされた、っていう感覚はあるけど・・・」
「じゃあもう1回ね。」と同じ工程を繰り返す。
なんか、要領が今ひとつわからない私。
でも、ここで適当にオッケーよ。なんて言って、実はあまり麻酔が効いてなくて、いざメスを入れられたらチョー痛い。なんてことは絶対イヤ(っていうか、そんなことある訳ないんだけど)なんて、またまた無知の私は勝手に思い込み、「すんません、もう1回やって・・・」と、何回もその冷たい感覚の確認をしてもらった。
結局、
冷たい感覚=切ったときの感覚
らしくって、冷たい感覚が麻痺すれば、メスで切られても痛くない、ということらしかった。
それでも、実際に下腹部に冷たい感覚を感じなくなっているのかどうか、よく分らなかった私は、つい、周りで忙しく動いているスタッフの人に、
「これって、もし切られた時すんご〜く痛かったら、痛い!って叫んでいいんですか?」
なんてことを無礼にもバカ丸出しで聞いてしまった。
「うん、でも麻酔効いていなかったら、痛いなんて声が出せる状態じゃないわよ。それに大丈夫。麻酔ちゃんと効いているから。」と親切に答えてくれた。
首のところに、一応仕切りみたいな感じでタオルのようなものが置かれた。
でも、首をひょいっと上にあげれば、お腹が見えちゃう感じ。
「これって、手術のときは目をつむっているんですか、開けていても良いんですか?」
とまたしても、おそらく愚問だろうことを、そばにいる人に聞いてしまった。
全身麻酔じゃないために、目と口はっきりで手も動かせちゃったりなんかして、いまいち落ち着かなかったのだ。
そこへ、見慣れた担当のドクターともう1人ドクターが揃って入ってきた。
"良かった。。さっきの案内青年はやはり、オペ室のアシスタント君だったんだな。"
と変なところでほっと一安心。
ドクターの準備も整ったらしく、何やらこれから手術を始めます、みたいなことを言われたと思う。
「よろしくお願いしま〜す。」と明るく言ってはみたものの、いよいよとなると、私も結構キンチョーしていた。
「メスを入れますよー」って聞こえた瞬間、
下腹部に「スッー」って線を引かれる感覚がした。
「えっ?えっ?いま、もう切ったのかな・・・」でも、痛くない。不思議な感覚だった。
そのあと、なんか、もう1回、「スッー」って線を引かれたような気がした。そのあと、何かで押えているような感覚があって(コレ、たぶん切った所を押えてたのかなぁ・・・)、
そして、腹の中に手を入れてモゾモゾゴソゴソしている感じがはっきりと分った。
何度も言うけど、でも、痛くないのだ。
ちょー変な感覚だった。ちなみに、結局目は開けていることにしたんだけど、さすがにお腹の方を見る勇気はなかったので、ぼんやり天井を見つめてた。
19:46分。
その直後、「ゲボッン」って声が聞えた。
「今の聞えた?」とドクターが言った。
「は?はぁ〜?」
「産まれたよ〜」とドクター。
うぅん?答える間もなく、助産婦さんかな?赤ちゃんを抱えて、2m位隣に設置してあった台の上に運び、シャワーみたいので洗っているようだった。
そしたら、
「オギャー!」って、
お決まりの最初の一声(ホントは、「ゲボッン」が最初だったんだけど)が聞えてきた。
やっと、「はっ、産まれたんだ、もう!」と我に返った私は、
赤ちゃんの方を向き、「手と足はちゃんと10本づつついていますか?」と思わず聞いてしまった。
そしたら、「ちょっと待ってね〜。今、きれいにしているから。」と返事がきた。
「おいおい、そうじゃなくって、ちゃんと五体満足なのかどうか、教えてよ〜〜!」
一瞬、すんごく不安になってしまった。キレイに洗われた赤ちゃんが私の顔の横に連れてこられるまでの時間がどんなに長く感じたことか。
コンタクトをはずしていた私には、顔の横に連れてこられた赤ちゃんはぼんやりとしか見えなかったけれども、
小さな小さな命が確かに生まれたんだなぁ〜と、
初めてというか、やっとジワジワ感動してきた。
その後赤ちゃんは、ガラス張りのケースに入れられて病棟へと連れていかれた。
私の方はと言えば、それから約40分くらいの間、お腹の中にあるもう必要のないもの(胎盤とか、羊水とかモロモロだと思う)を、お掃除してもらった。
これがまた、何と言うか不思議な感覚。
ドクターの手が自分の腹の中をぐりぐり触ってモゾモゾ動かしているのが、よく分る。
でも全然痛みはない。
そして、最後、開いた所を縫って、(というか、ホチキスのようなものでバン、バンってとめていた)全てが終わった。
その日の夜は、丸々2日間近く寝ていないので、さぞかし曝睡できるだろうと思っていたが、どうもコーフンしていて眠れない。
赤ちゃんは、今ごろど〜してるかな、なんて考えていた。結局、朝方うつらうつらしただけだった。








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